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モダンクラシックを極める。

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モダンクラシックとは?

21世紀に生きる一人の醸造家として、
はるか二千年に及ぶ日本酒の歴史(クラシック)を受け継ぎ、
その中に新たな可能性(モダン)を見いだすこと。
それは日本酒を通して日本の美しさと美学を表現することであり、
それを極めることこそが私にとっての「モダンクラシック」なのです。

「モダンクラシック」は
私の醸造家人生を懸けて
取り組む宿命です。

絶望、そして決断

その日、想像を絶する巨大な揺れが、海からわずか数十メートルにある大谷石づくりの酒蔵を襲いました。
三度の激しい揺れに遭い石蔵には大きな亀裂が入り、石塀は倒壊し、津波が押し寄せました。
壊滅的な被害をもたらした2011年の東日本大震災は、私を絶望の淵に叩き落とし、
大切な家族や社員にも精神的なダメージを与えました。
「このまま辞めるか、続けるか」大きな決断を迫られる中、「どちらにしても困難であることに変わりはない。
ならばせめて心からつくりたいと思える理想の酒を自分の手で醸したい。それでダメなら蔵を閉めよう。」
という想いから、続ける決断をしたのです。
思えば、これが「モダンクラシック」を極める日々の始まりだったのです。

支えてくれる人々のために

再起をかけた大きな決断でしたが、全く思うような酒ができない日々が続きました。
時には信頼する専門家の方に自分の酒を酷評されたこともありました。
厳しい言葉でしたが、理想の酒をつくるという私の挑戦を本気で受け止めてくれたからこその助言であり、
本音で話してくださることが私にとって大きな財産であると思えました。
暗中模索の酒づくりは試行錯誤の連続、わずかな光も見えず、心が折れそうになるたびに、
思い返したのが「家族を大切にしなさい」という教えでした。
その言葉に、「支えてくれる家族のためにも、頑張ってくれている社員のためにも絶対に諦めない!」
という気持ちを掻き立てられました。
そうして毎日コツコツと研究と試作を重ねるうちに、少しずつ、少しずつ酒づくりの疑問が解けていき、
目指す場所を示す光明が差し込んできました。
『森嶋』が誕生するまで / 蔵の新しいスタンダードとなる酒を目指して。

身近にあった「日本の美」への気づき、そして「モダンクラシック」へ

自らの酒づくりを一から見直す日々で、衝撃的な気づきがありました。
私が生まれ育った茨城県日立市からほど近い場所に、五浦(いづら)という場所があります。
そこはかつて思想家 岡倉天心を師と仰ぐ日本画の大家、横山大観や木村武山、菱田春草らが
自らの画業の道を究めんと創作に勤しんだ土地でした。
当蔵のもう一つのブランド「富士大観」も、日本酒を好まれた大観先生とのご縁から誕生しました。
そんな土地柄のせいか、父は日本の芸術や美術をこよなく愛する人で、
私も生まれながらに日本画や陶磁器が身近にある環境に育ちました。
ですが、そこに価値があることに全く気づいていませんでした。

しかし、自分の酒を追い求め、悩み、失敗を繰り返す過程で、
昔ながらの日本酒の醸し方に新しい可能性を見いだしたその時、
私の周りにあったそれらの点が、ついに線でつながったのです!

日本の美の本質とは、「侘び寂び」「無いことの豊かさ」「余白の美しさ」。
私の目指す“理想の酒”はこれだ!
私が追い求める酒づくりは「日本の美」そのものだったのです。
ごく自然に育まれた感性が、自らの酒づくりの根底にあることに気づいた瞬間でした。
もがきながら必死に追い求めたものは、意外にも最初からすぐそばにあったのです。

21世紀に生きる一人の醸造家として、はるか二千年に及ぶ日本酒の歴史(クラシック)を受け継ぎ、
その中に新たな可能性(モダン)を見いだすこと。
それは日本酒を通して日本の美しさと美学を表現することであり、
それを極めることこそが、私にとっての「モダンクラシック」である、
という想いはこうして私の中に形づくられたのでした。

感謝の気持ちを携えて、日々前進し続ける

大震災で崩れた蔵の石片を不屈のシンボルとして誕生した「森嶋」。
お客さまの心に投じた一石は、今大きな波紋となって戻ってきました。
森嶋を「美味しい!」と言っていただいた時、喜びと安堵の波紋が私の心に広がったのです。
それは、絶望の中で下した決断は正しかったのだ、という思いと、
支えてくれた家族、そして苦難の道のりを共に乗り越えてくれた社員の頑張りに
ようやく報いることができた、という思いが入り混じった特別な感覚でした。

それからは、お客さまを思い浮かべながら酒づくりをするようになりました。
お客さまの存在が酒づくりにさらなるモチベーションを与えてくれたのです。
それは、受け入れていただけたからこそ見える新しい景色でした。
そして今、絶望から立ち上がりわかったことがあります。
日々の小さな積み重ねこそが、理想の酒に近づくための唯一の手段である。
そのために、モダンクラシックを極め、さらに美味しい「森嶋」を表現し続ける。
それが私の宿命であり、みなさまとの約束なのです。

私はこれからも、お客さま、家族、社員への感謝の気持ちを携えて、
たとえ0.1ミリであっても日々前進し続けます。

Profile
森嶋 正一郎 Morishima shoichiro 森島酒造株式会社 専務取締役杜氏
1975年茨城県日立市生まれ。東京農業大学農学部醸造学科卒業。池本酒造(琵琶乃長寿)にて修業を経て1999年森島酒造(株)入社。2006年南部杜氏資格選考試験合格(茨城県出身者初) 2019年常陸杜氏資格取得資格選考試験合格。同年、森嶋シリーズ発売。